拝啓私 徒然草々

日常と妄想、いろーんな角度から観た世界を紡ぎます。ことばで泳ぐの練習です。  【0806】定期更新してみます。毎週月曜日、だからそれ以外は目を運ばなくてもよいよ笑

掘る×盛る

2014.05.18(日)AM10:00f:id:haruzousophy:20140520123515j:plain


金曜日土曜日とは代わって、良い天気。

自転車走らせ、畑。


掘ります。掘ります。

疲れます。掘ります。

水を飲みます。

掘ります。掘ります。


作業の切りがよいところで、
綿矢りさ著さんの「インストール」を、本の3分の1を開く。
(あこれおもしろいー)と、座る位置を代えて、あっさり読み終わって。

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風。

ふっと明るくなる陽。

覆いかぶさる雲。

風。

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小学校をずる休みした日に、ベッドから窓を通して眺める雲のような、ここち。

ああ、ここいいー。

うまく行く予感。

ここには、「インストール」のみの娯楽があったからね。

きっとアトリエになったら、愉しいと思う。



掘ります。掘ります。

彼女は意味もなくあんなことして。

掘ります。掘ります。

さて僕は、なぜこんなことをしているのか。

掘ります。掘ります。

今やりたいことは、これのみ。

掘ります。

掘らなければいけない、僕って、いったい。

掘ります。

稀である。

掘ります。

存在理由。

掘ります。

事務仕事。公共事業の県庁からの設計業務委託は、なんというか。

掘ります。

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この地面を刻む行為。

存在理由(リーゾンデゥトル)は確かに刻まれる。

掘ります。

身体に残る痺れ、手の指の付け根に豆、ひとつ敗れる。

雨水の始末が悪いことに気づく。

盛りながら掘ります。盛りながら掘ります。

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隙間に枯れ草を当てて、土を被せます。
まるで土壁、笑。

無事に盛りました。雨仕舞は大丈夫。

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ここにラベンダーを植える計画です。



つづく。写真は追って。
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屋根×魔術師×掘る

午前8時。f:id:haruzousophy:20140520123007j:plain


仙人は彼のコードネームである。
すでに畑近くの駐車場と呼ばれる土手のアルコーブで待っているやる気。

「おおおおおおおい」

久々の再開はさて置き、


尺棒作って、直角を相似を使って作り、けっこう丁寧に作ることができました。

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仙人は、スムーズ・スマート・クール、仕事人でした。
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お陰様で、さくさく進んだね。よかったです。


途中、僕の住まう家の隣りにある家族のおじいちゃん、住民会長が

「何しったなあ?」
と声を張るのです。
「みんな不思議がってるう、不審者いだあんねがって」
僕は、謝り
僕「畑始めてるんですよ。趣味で。」
会長「どんげだごどしてんなあ」
僕「無農薬は周りの職業農家に迷惑かけるんで、」
会長「んなごどねえ
僕「まあず、そう知ったわけですよ」
会長「どおごでや?」
僕「テレビや本で、これは結構一般的に出回っている話で、」
会長「おれのどごろは無農薬でやってんぜえ?」
僕「まあじっすか?そんなことできるんですね!」
会長「んだよ。おめ、耕さねまねぞ。どう考えったな?」
僕「自力でやろうと思って!何センチぐらい、深さ、必要なんですか?」
会長「30センチぐれがのお」
僕「ん~~~~~、がんばります。」
会長「その建物は何だな?」
僕「これは、休憩小屋です!道具置いたり」
会長「ああ、、なるほど、。でも水大丈夫だがや」
僕「水ですか」
会長「畑は低いんだ、水溜まっろや。この高いどごろさ、床上げでつぐればいっちゃや」
僕「高床ですか~。考えてたんですけど、材料かかるんですよ。掘るのが一番材料かかんないんです。それに、ここは畑じゃなくて誰かのものでしょ?」
会長「んだな、国のだ。でもいっちゃ固定しねば」
僕「不動産にしないで、仮設物にすればいいってことですね?それも実は考えていたんですけど、でも材料かかるんですよ。僕!お金ないんで!」
会長「そういうごどの~~。でもやあ、こんな時間あったら、畑耕すけどなあ」
僕「畑の班長は、友達なんですよ。でもあいつなかなかやんなくて、やる気はあるみたいねんですけど」
会長「働がねなが!わっはっはっは」
僕「僕は、小屋の係なんです」
会長「そういうことのう」
僕「では!」

作業に戻る。
仙人「だれ?」
僕「お隣さんと初めて話した」
仙人「僕!お金ないから!っていうのがウケだっけ」
僕「だってえ」

会長「まんず!おもしろいごどやってるう!」
僕「はーい!おもしろいですか!?そりゃあよかった!」
会長「こんげだどごでこんげだごどして。女もつぐれよー?」
僕「女の子、そのうち見つけるよね?連れてくるよね?」仙人へ
会長「女は見つけるもんじゃね、つぐるもんだ!」
僕「ん?どういうことですか!?」
会長「糸垂らして待ってでも、こごでこんなごどしてでも、いづなってもでぎねえ。女が沢山いるどごろさいって、つぐるなや!」
僕「なるほど~。この間、釣り堀行ったんですけど、その時、僕だけ全然釣れなくてずっと。んで、係員さんにコツ教えてもらったら、釣れるようになったんですよ!そんな感じですか!?」
会長「んーーー、ちょっと違う気がするげど、んだ!!」
僕「そっちもがんばります!まだ、23だしね、青春」
会長「もう23があよ。」
僕「え?会長が23のときはどうだったんですか?」
会長「おれのどぎは高校卒業でおどなださげの、23は青春の終わりや。もうみんな結婚してるぞお」
僕「ああ。。そうなんですねえ」
会長「まあ今は遅いがらのう。大丈夫だ」
僕「はい!がんばります!!」
会長「んだんだ!」
僕「あ!部落の皆さんにも伝えておいて下さい!」
会長「BuuuuuuuuuuuuuuuuuuN」



とまあ、
「僕と僕らがしているこれは、客観的におもしろいらしいぞ!」と仙人へ
「おれは、あの人どしゃべってる旦那がおもしっけ」僕のコードネームは旦那と決めてる。
仙人「おれだったら謝るもん。旦那は説明してで、すごい」
旦那「だってええ」


僕は、うんうんと、女の子について話し、哲学を齧った話を吐き、仙人は、どうしていたっけ。


僕は愉しかった。

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【お題投稿】 父物語

今週のお題ゴールデンウィーク2014」

  父物語


           (初)

 正しい事は存在しない。誤っている事は存在しない。事実を偽って嘘にすることもあれば、嘘を丁稚上げて事実をつくることもある。物語と名乗るとき、それらは一層曖昧となる。本当の事なのか、嘘っこの出鱈目なのか、現実の記録なのか、想像の備忘録なのか、この文章を物語と名付ける。



           (一)

 平和なゴールデンウィークの朝、平和ではないそれらの上に成立する。とても幸福な時は6時を刻む※。部屋から階段を下り、台所に赴き、珈琲を淹れる。それは濃く、少量でよい。隣りにもカップが用意しており、そちらはネルの続きの薄いものでよい。濃い方をサランラップで包み、階段を上る。窓を跨ぎ瓦に足つく。あたたかい。屋根の上、定位置に着けば、サランラップをめくる。

 陽、珈琲、瓦の温もり、目を閉じるでもなく開けているから何処かを見るというでもなく、浸る。それに。



           (二)

 「z」と「j」と「s」と「r」の音が聴こえる。
 「これはおそらく砂利と、砂とスコップ、それとプラスチックの音である」
父が働いている事を現わす。僕は再び読書に戻るが、理由の説明は兎も角として直感的にコンクリート打ちに興味と関心があるために、文字を追いながらも、父の行いについて考え始める。
《そういえば昨日の夕方、車庫の隣の小さな物入のスロープを作ろうとしている父に出合った。ちょうどよいところにきた、ということで墨出しの手を一度貸したのだ。父が求めるのはそれだけだった。》
 今日はコンクリートを打つ日だ。
 僕は、僕に読まれていた本とヘッドフォンとMP3プレイヤーを持って、部屋着にカーディガンを羽織ったという出で立ちで、父の傍に訪れる。※

 「父ちゃんは休みの日も働ぐあんのう。なかなかいないぜ。」
 僕は気取ったライターのように馴れ馴れしい。状況などわからない方がよしとして。
「んだぜ。」
父はそれだけだ。
 僕は、近くに積まれた石等に尻の置き場所を決め、再び本の文字を追う。僕がたとえ、父の行っている作業に手を出したところで、一匹狼の父には、良くも悪くも足手まといになる、そういう理由にしておく。
 本はすでにあとがきにさしかかっているので、そのうちにして読み終える。村上春樹の「風の歌を聴け」読了。2周目。
父も、まず著者と同年代と言って差し支えはないだろう。もし、父に豊潤な言葉を持たせたら、父は、この僕の事をどう述べるのだろう。

 父の気持ちはまったく、ひとつもわかりえないが、仕事のとなりで、ヘッドフォンからビートルズが漂ってくるのは、良い事に違いない。このように、僕と父との関係は、ふたりの間にのみ成立している。



             (三)

 父が一連の作業を止め、トラックから開かれたお店をしまう支度をする。
「材料が。」
僕は言葉が短い分、尻上がりに尋ねる。
「砂とってくる」
ふーん、と、場所はおそらく
「畑が。」
尻上がりに尋ねる。

「会社」
父は、支度の隙間に応えてくれた。
 僕は笑うのが先か、事態の理解が先かわからないまま。
「あっはっはっはっはっ」《父よ、それを僕は義務教育で泥棒と教わったよ》

 軽トラックの中では、ラジオは音を失わせられ、ヘッドフォンからビートルズが流れている。車中、父に聞くところ、会社には誰もいないから持ってきてよい。みんなそうする習慣のうえに成り立っている会社なのだ。道具も盗まれるから、何も置かれていない。あるのはセメントぐらいだという。
 建設業界がそもそも、どんぶり勘定だという常識を、自分の勤める会社で耳に教わっていたため、へえ。と思う。素晴らしい会社だ。

 会社に道具を忘れ、それをちょっと取りに来た父は、車を動かし砂利と砂が山をつくっている場所に移動した。資材置き場の様子を確かめるが、何も異常はない。
 平和なゴールデンウィーク。ぽかぽかの日和のなか、存在するのは野の草を揺らす風と、父と、僕だけである。それらのみで世界が成立している。父は、
「まだ9時があ。」
という。父の、時間に対する物差しの目盛は、何分ごとに刻まれているのだろうか。


              (四)

 僕は石等の上で、さっきとは交代して僕の相手をしてくれる本を開く。樋口一葉の「たけくらべ」に、岩崎ちひろが描いた挿絵をが添えられたものである。
(廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝火うつる三階の騒ぎも手に取る如人)・・・閉じる。
(素敵な表紙だなあ。それだけはわかるよ。)
おそらく中身もそれとどちらが勝るか判別が付けられぬほど、素敵なのだろう。
 こういうとき、思うようにしている。
 東大生の勉強法という一項を、カジュアルな月刊誌のいつかのにある。東大生は教科書を7回読む。1、2回目はパラパラと、目次と項目だけを。もちろん、何が書かれているのかは、彼らもわかりえない。それを経て、東大に行く。
僕は「たけくらべ」をもう一度開く。挿絵だけを捲っていく。ものの3分を擁する。
父の仕事ぶりを眺める。これといって変わりはない。僕が小学校に入ってから18年が流れるが、変わらないのだ。これはよいことだ。大きなバケツに汲み置きされた水が減り、もしかすると今の作業の工程のうち、拍が乱れるのではないか。僕は大きなバケツを持ち上げ、外に備え付けてある流しにそれを連れていく。水を溜めるいっとき、陽と清流、というものを感じる。頃合いを諮って蛇口を閉める。初めて持ち上げる大きなバケツは重く、僕は困ることはないにしろ、格好の悪い、小学生であれば可愛らしい様子でそれを連れていく。
それから、部屋からスケッチブックと筆ペンを取り出し、2リットルペットボトルの烏龍茶を携えて戻ってくる。父に烏龍茶の存在がここにあると伝える。そうして、石等の上で文章を書く。



             (五)

 父にまた、トラックを動かす素振りが見えるので、僕もそれに同行する。父は、
「トラック4台分か」
と、往復の数に関心を覚えている。僕は、それがどのくらいのことかわからないので、ただ文字を滑らせている。

 戻る道中、
「父ちゃんは、本読みでえ。って思うごどあるが。読まいれば読みでなあ。って」
尻上がりに尋ねる。
「そういうどぎも、あるがものう。」


「でもしかたねえよの」
「んだ。」
「それって、おれが速ぐ走らいねなど一緒だろ。おれが重いもの持だいねなど、一緒だろ。」
尻を上げて尋ねる。
「んだじゃんのう。」

 これにて、黙々と働く父と、そのとなりで本を読む僕についてと。僕が明治文学をまだ読むことが出来ないことについてが、成立したのである。
 「まだ10時があ」
 「陽ぃあど早えもんのう。5時半で明るいんだ。」
父の確認に適当に返す。
「あど田植えしったなだ」
と、父。
「日中仕事さ務めでるがらだろお」
と、僕。
「植えれば何とがなるがらの」
と、父。
 軽トラックが通り過ぎる田畑では、田植えをしている家族がいる。


             (結)

 車庫の隣の小さな物入のスロープは、昼には作業が終わり、明日にはコンクリートの硬化が進む。思い出した頃には、出来上がっているのだろう。そこには心配の存在は無い、言葉のみを借りてきただけだ。何故このような、父についての文章を書くことになったのか。わからないけど、それはその必要があったからだ。
 僕は、スケッチブックを閉じて、筆ペンのキャップを元のように閉める。昼ご飯は、冷たい蕎麦が良いだろう。

                             
             (完)

 
                  二〇一四年五月四日

君物語

  君物語
                           


           (お茶)

 午後の陽だまりが一室を満たしている。光が部屋の各々置かれたものたちを、その輪郭を撫で、そうっと現実に透けていく。そうやって、心地のよい世界と現実の世界はゆらゆらと介在している。

 (幸福とは何だろう。)

僕は頭のなかで穏やかな波に身体を委ね漂っていたようだ。

「ぱさ、」

「ぱさ、」

「ぱさ。」

君が漫画を縫っているのか、服を読んでいるのか、わからない背中をして。

僕は猫が世界の様子を窺っているように、ソファに横たわる。

頁を捲る君は、野の草が揺れる様。しばらくの間、ずっと。



そうして、君は立ち上がり、世界に「ただいま」を言うように、ぐーん。と背伸びをする。部屋に備わる雑貨たちも、「おかえり」と微かな燻りをみせていいるだろう。彼女は美しい。

「おかえり。」
僕は言う。
「ただいまー」
彼女は、たとえば上手に焼かれ、四角くカットされたバターを頭に乗せたホットケーキ、その上からメープルシロップが垂れるような、穏やかな口元で返事を返すと、台所に向かう。数歩。彼女は可愛い。
 彼女はカチャカチャと、お茶を汲んで二人分の湯気とともに戻ってくる。僕は、
「あっち、向いてて。」
と言って、とくに何もない、カレンダーも時計も掛けられていない白みがかったベージュ色の壁を指さす。彼女はそれに従ってくれる。


 意識とは別のところ、下腹部のまた下にあるところで膨らむもの。ただ膨らむ。僕はゆっくりと君の背に近づき、肉体の柔らかさを、クッションのそれを確認するように抱きしめる。そうして、下腹部下の膨らんだものを、君の両太ももの隙間に当ててそれだけ。理由もなく。









しばらくして、彼女がひとつ、空気に放つ。

 
              お

              茶
              。
 



                            」



二〇一四年四月二二日

父物語

  父物語


           (初)

 正しい事は存在しない。誤っている事は存在しない。事実を偽って嘘にすることもあれば、嘘を丁稚上げて事実をつくることもある。物語と名乗るとき、それらは一層曖昧となる。本当の事なのか、嘘っこの出鱈目なのか、現実の記録なのか、想像の備忘録なのか、この文章を物語と名付ける。



           (一)

 平和なゴールデンウィークの朝、平和ではないそれらの上に成立する。とても幸福な時は6時を刻む※。部屋から階段を下り、台所に赴き、珈琲を淹れる。それは濃く、少量でよい。隣りにもカップが用意しており、そちらはネルの続きの薄いものでよい。濃い方をサランラップで包み、階段を上る。窓を跨ぎ瓦に足つく。あたたかい。屋根の上、定位置に着けば、サランラップをめくる。

 陽、珈琲、瓦の温もり、目を閉じるでもなく開けているから何処かを見るというでもなく、浸る。それに。



           (二)

 「z」と「j」と「s」と「r」の音が聴こえる。
 「これはおそらく砂利と、砂とスコップ、それとプラスチックの音である」
父が働いている事を現わす。僕は再び読書に戻るが、理由の説明は兎も角として直感的にコンクリート打ちに興味と関心があるために、文字を追いながらも、父の行いについて考え始める。
《そういえば昨日の夕方、車庫の隣の小さな物入のスロープを作ろうとしている父に出合った。ちょうどよいところにきた、ということで墨出しの手を一度貸したのだ。父が求めるのはそれだけだった。》
 今日はコンクリートを打つ日だ。
 僕は、僕に読まれていた本とヘッドフォンとMP3プレイヤーを持って、部屋着にカーディガンを羽織ったという出で立ちで、父の傍に訪れる。※

 「父ちゃんは休みの日も働ぐあんのう。なかなかいないぜ。」
 僕は気取ったライターのように馴れ馴れしい。状況などわからない方がよしとして。
「んだぜ。」
父はそれだけだ。
 僕は、近くに積まれた石等に尻の置き場所を決め、再び本の文字を追う。僕がたとえ、父の行っている作業に手を出したところで、一匹狼の父には、良くも悪くも足手まといになる、そういう理由にしておく。
 本はすでにあとがきにさしかかっているので、そのうちにして読み終える。村上春樹の「風の歌を聴け」読了。2周目。
父も、まず著者と同年代と言って差し支えはないだろう。もし、父に豊潤な言葉を持たせたら、父は、この僕の事をどう述べるのだろう。

 父の気持ちはまったく、ひとつもわかりえないが、仕事のとなりで、ヘッドフォンからビートルズが漂ってくるのは、良い事に違いない。このように、僕と父との関係は、ふたりの間にのみ成立している。



             (三)

 父が一連の作業を止め、トラックから開かれたお店をしまう支度をする。
「材料が。」
僕は言葉が短い分、尻上がりに尋ねる。
「砂とってくる」
ふーん、と、場所はおそらく
「畑が。」
尻上がりに尋ねる。

「会社」
父は、支度の隙間に応えてくれた。
 僕は笑うのが先か、事態の理解が先かわからないまま。
「あっはっはっはっはっ」《父よ、それを僕は義務教育で泥棒と教わったよ》

 軽トラックの中では、ラジオは音を失わせられ、ヘッドフォンからビートルズが流れている。車中、父に聞くところ、会社には誰もいないから持ってきてよい。みんなそうする習慣のうえに成り立っている会社なのだ。道具も盗まれるから、何も置かれていない。あるのはセメントぐらいだという。
 建設業界がそもそも、どんぶり勘定だという常識を、自分の勤める会社で耳に教わっていたため、へえ。と思う。素晴らしい会社だ。

 会社に道具を忘れ、それをちょっと取りに来た父は、車を動かし砂利と砂が山をつくっている場所に移動した。資材置き場の様子を確かめるが、何も異常はない。
 平和なゴールデンウィーク。ぽかぽかの日和のなか、存在するのは野の草を揺らす風と、父と、僕だけである。それらのみで世界が成立している。父は、
「まだ9時があ。」
という。父の、時間に対する物差しの目盛は、何分ごとに刻まれているのだろうか。


              (四)

 僕は石等の上で、さっきとは交代して僕の相手をしてくれる本を開く。樋口一葉の「たけくらべ」に、岩崎ちひろが描いた挿絵をが添えられたものである。
(廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝火うつる三階の騒ぎも手に取る如人)・・・閉じる。
(素敵な表紙だなあ。それだけはわかるよ。)
おそらく中身もそれとどちらが勝るか判別が付けられぬほど、素敵なのだろう。
 こういうとき、思うようにしている。
 東大生の勉強法という一項を、カジュアルな月刊誌のいつかのにある。東大生は教科書を7回読む。1、2回目はパラパラと、目次と項目だけを。もちろん、何が書かれているのかは、彼らもわかりえない。それを経て、東大に行く。
僕は「たけくらべ」をもう一度開く。挿絵だけを捲っていく。ものの3分を擁する。
父の仕事ぶりを眺める。これといって変わりはない。僕が小学校に入ってから18年が流れるが、変わらないのだ。これはよいことだ。大きなバケツに汲み置きされた水が減り、もしかすると今の作業の工程のうち、拍が乱れるのではないか。僕は大きなバケツを持ち上げ、外に備え付けてある流しにそれを連れていく。水を溜めるいっとき、陽と清流、というものを感じる。頃合いを諮って蛇口を閉める。初めて持ち上げる大きなバケツは重く、僕は困ることはないにしろ、格好の悪い、小学生であれば可愛らしい様子でそれを連れていく。
それから、部屋からスケッチブックと筆ペンを取り出し、2リットルペットボトルの烏龍茶を携えて戻ってくる。父に烏龍茶の存在がここにあると伝える。そうして、石等の上で文章を書く。



             (五)

 父にまた、トラックを動かす素振りが見えるので、僕もそれに同行する。父は、
「トラック4台分か」
と、往復の数に関心を覚えている。僕は、それがどのくらいのことかわからないので、ただ文字を滑らせている。

 戻る道中、
「父ちゃんは、本読みでえ。って思うごどあるが。読まいれば読みでなあ。って」
尻上がりに尋ねる。
「そういうどぎも、あるがものう。」


「でもしかたねえよの」
「んだ。」
「それって、おれが速ぐ走らいねなど一緒だろ。おれが重いもの持だいねなど、一緒だろ。」
尻を上げて尋ねる。
「んだじゃんのう。」

 これにて、黙々と働く父と、そのとなりで本を読む僕についてと。僕が明治文学をまだ読むことが出来ないことについてが、成立したのである。
 「まだ10時があ」
 「陽ぃあど早えもんのう。5時半で明るいんだ。」
父の確認に適当に返す。
「あど田植えしったなだ」
と、父。
「日中仕事さ務めでるがらだろお」
と、僕。
「植えれば何とがなるがらの」
と、父。
 軽トラックが通り過ぎる田畑では、田植えをしている家族がいる。


             (結)

 車庫の隣の小さな物入のスロープは、昼には作業が終わり、明日にはコンクリートの硬化が進む。思い出した頃には、出来上がっているのだろう。そこには心配の存在は無い、言葉のみを借りてきただけだ。何故このような、父についての文章を書くことになったのか。わからないけど、それはその必要があったからだ。
 僕は、スケッチブックを閉じて、筆ペンのキャップを元のように閉める。昼ご飯は、冷たい蕎麦が良いだろう。

                             
             (完)

 
                  二〇一四年五月四日